分散の計算を行うときに、よく使われる性質をまとめました。
期待値には線形性が成り立っていますが、分散では成り立ちません。
そのため、期待値の性質と比べると覚えにくいですが、証明は難しくないので、一度証明できるようになれば忘れることは少なくなると思います。
それでは、分散の性質を見ていきましょう。
分散の性質
分散で重要となる性質は以下の3つです。
確率変数を \(X\)、定数を \(c\)、分散を \(V(X)\) と書いています。
- \(V(X)=E(X^2)-(E(X))^2\)
- \(V(X+c)=V(X)\)
- \(V(cX)=c^2 V(X)\)
- \(V(X+Y)=V(X)+V(Y)+2Cov(X,Y)\)
上記の1.は分散を計算するときに使われる式です。分散は定義通りに計算するよりも、1.の式を使って計算する方が簡単になる場合が多いです。
2.と 3.は分かりづらい式となっていますが、これは分散の定義式に2乗が入っているためです。
証明を行うとはっきりします。
4.については共分散を使います。4.の証明は下記記事で解説しています。
性質1.~4.はどれも重要ですが、期待値の性質と比べると直感的には分かりづらいです。
幸いにも、分散の性質の証明方法は難しくないので、証明の中身を見ていただくと記憶に残りやすいです。
それでは、証明を見ていきましょう。
分散の性質の証明
まず初めに、分散の定義を確認しておきます。
$$V(X)=E(X-E(X))^2$$
分散の証明では、この定義を頻繁に使用します。
まず、性質1.の証明からです。
\begin{align}
1. V(X)&=E(X-E(X))^2\\
&=E(X^2-2XE(X)+(E(X))^2)\\
&=E(X^2)-2E(X)E(X)+(E(X))^2\\
&=E(X^2)-(E(X))^2\\
\end{align}
2行目から3行目の式変形ですが、期待値の線形性を利用しています。また、2行目第3項は
$$E(E(X)^2)=(E(X))^2$$
と式変形して\(E\)が一つ消えていますが、これは\(E(X)^2\)は定数であるためです。\(X\)は変数ですが、\(E(X)\)は定数なので注意が必要です。
(筆者も最初はつまづきました。)
続いて2.の証明に移ります。
\begin{align}
2. V(X+c)&=E(X+c-E(X+c))^2\\
&=E(X+c-E(X)-c)^2\\
&=V(X)\\
\end{align}
2.の計算のコツとしては、2乗を展開しないことです。もし展開してしまうと計算量が非常に多くなってしまいます。
最後に性質3.の証明を示します。
\begin{align}
3. V(cX)&=E(cX-E(cX))^2\\
&=E(cX-cE(X))^2\\
&=(c E(X-E(X))^2\\
&=c^2 V(X)\\
\end{align}
3.でも2乗は展開せずに計算しています。
性質4.
$$V(X+Y)=V(X)+V(Y)+2Cov(X,Y)$$
の証明については、共分散の性質の中で示していますので、そちらをご覧ください。
以上で分散の4つの性質の証明を終わります。
特に性質1. の証明で示した「\(E(X)\) は定数」というのが間違えやすいポイントですので、注意してください。
まとめ
本記事では、分散の性質を紹介しました。
分散の性質でよく使われるのは以下の4つです。
- \(V(X)=E(X^2)-(E(X))^2\)
- \(V(X+c)=V(X)\)
- \(V(cX)=c^2 V(X)\)
- \(V(X+Y)=V(X)+V(Y)+2Cov(X,Y)\)
期待値の性質と比べるとパッとは覚えられませんが、調べればすぐに分かるので、無理に覚える必要はありません。
分散の性質の証明の中にも、様々な計算テクニックが盛り込まれているので、一度自力で計算してみることをオススメします。
以上、分散の性質の一覧と、その証明でした。