「正規分布の期待値と分散って理論的にはどうやって求めるの?」
「自分で計算してみたけど、どこで計算ミスしてるか分からない…」
このような方へ向けて、本記事では期待値と分散の求め方を分かりやすく解説します。
正規分布の定義
初めに計算で必要となる、正規分布の確率密度関数と、モーメント母関数を示します。
確率密度関数
$$f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \exp\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)$$
モーメント母関数
$$M(t)=\exp(\mu t+\frac{1}{2} \sigma^2t^2)$$
モーメント母関数の求め方を知りたい、という方は以下の記事をご覧ください。
期待値と分散を求める2通りの手順
正規分布に限ったことではありませんが、期待値と分散を理論的に求める手順は大きく分けて2通りあります。
その手順とは、
- モーメント母関数を利用する方法
- 確率密度関数から直接計算する方法
です。
そして、基本的には「モーメント母関数を利用する方法」の方が簡単に計算できます。
その理由は、確率密度関数から計算すると積分やシグマの計算が必要になり、様々な計算テクニックが求められるからです。
この後、両方のやり方で計算していますので、違いを見比べてみてください。
ちなみに、どちらの方法でも高校レベルの微積分の知識が必要です。
本記事では高校数学の部分については途中式を省略していますので、必要に応じて参考書等をご覧ください。
期待値と分散の具体的な計算手順
ここからは具体的な計算手順を2通りの方法で示します。
以下では、期待値を\(E(X)\)、分散を\(V(X)\)で表します。
モーメント母関数を利用する方法
分散を直接求めることは難しいので、以下の性質を使って計算します。
$$V(X)=E(X^2)-(E(X))^2$$
この式は分散の性質で詳しく説明していますので、参考にしてください。
つまり、期待値と分散を求めるためには、\(E(X)\)と\(E(X^2)\)が計算できれば良いということになります。
\(E(X)\)と\(E(X^2)\)の計算には
\begin{align}
E(X)&=\left.\frac{d}{dt}M(t)\right|_{t=0}\\
E(X^2)&=\left.\frac{d^2}{dt^2}M(t)\right|_{t=0}
\end{align}
を利用します。
モーメント母関数を2回微分して、\(t=0\)を代入すると得られます。
実際にモーメント母関数を微分すると、以下のようになります。
\begin{align}
M(t)&=\exp(\mu t+\frac{1}{2} \sigma^2t^2)\\
\frac{d}{dt}M(t)&=(\mu+\sigma^2t)\exp(\mu t+\frac{1}{2} \sigma^2t^2)\\
\frac{d^2}{dt^2}M(t)&=\left\{\sigma^2+(\mu+\sigma^2t)^2\right\}\exp(\mu t+\frac{1}{2} \sigma^2t^2)
\end{align}
これらに\(t=0\)を代入すると、
\begin{align}
E(X)&=\left.\frac{d}{dt}M(t)\right|_{t=0}=\mu\\
E(X^2)&=\left.\frac{d^2}{dt^2}M(t)\right|_{t=0}=\mu^2+\sigma^2
\end{align}
これで、期待値は\(\mu\)になるということが分かります。
分散については、上記で述べた分散の性質を使って、
\begin{align}
V(X)&=E(X^2)-(E(X))^2\\
&=\sigma^2
\end{align}
となります。
モーメント母関数を微分して\(t=0\)を代入するだけで期待値と分散を求められますので、計算の見通しが立てやすいのが、嬉しいところです。
確率密度関数から直接計算する方法
まずは\(E(X)\)を計算します。積分を使うので計算は複雑になります。
$$E(X)=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}x\exp\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)dx$$
このままでは計算しにくいので、次の変数変換を行います。
$$z=\frac{x-\mu}{\sigma}$$
この変数変換は正規分布の標準化の際によく用いられます。
\(dx/dz=\sigma\)に注意すると、次のように変換されます。
$$E(X)=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}(\sigma z+\mu)\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)\cdot \sigma dz$$
全然簡単になったように見えませんが、指数関数の中を簡略化したかったのです。
ここで、次の2種類の積分の値を使います。
$$\int_{-\infty}^{\infty}\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)dz=\sqrt{2\pi}$$
$$\int_{-\infty}^{\infty}z\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)dz=\left[-\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)\right]_{-\infty}^{\infty}=0$$
上の積分は「ガウス積分」と呼ばれています。途中式は複雑ですので、結果のみ示しました。
これらの式より、
\begin{align}
E(X)&=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\left(\sqrt{2\pi}\mu\sigma+0\right)\\
&=\mu
\end{align}
となり、期待値が求まります。
……かなり大変です。
続いて\(V(X)\)の計算です。モーメント母関数を使って分散を計算するときは\(E(X^2)\)を求めましたが、確率密度関数から分散を計算するときは、分散の定義にしたがって計算する方が早いです。
いま\(E(X)=\mu\)と求めましたので、これを使います。
先ほどと同じく、
$$z=\frac{x-\mu}{\sigma}$$
の変数変換を行います。
\begin{align}
V(X)&=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}(x-\mu)^2\exp\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)dx\\
&=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\sigma^2z^2\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)\cdot \sigma dz
\end{align}
これは部分積分を使うことで計算できます。
\begin{align}
V(X)&=\frac{\sigma^2}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty}-z\frac{d}{dz}\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)\\
&=\frac{\sigma^2}{\sqrt{2\pi}}\cdot\sqrt{2\pi}\\
&=\sigma^2
\end{align}
部分積分の途中式は省略しています。
ようやく期待値と分散を計算することができました。
式を見ていただけると分かるように、確率密度関数から直接計算するのは骨が折れます。
まとめ
本記事では正規分布の期待値と分散の計算方法を解説しました。
大きく分けて、
- モーメント母関数を利用する方法
- 確率密度関数から直接計算する方法
の2通りの計算方法があります。
簡単に計算できるのはモーメント母関数を利用する方法で、2回微分することで求まります。
確率密度関数から直接計算する場合はガウス積分が登場し、積分の計算が大変なのでオススメしません。
以上、正規分布の期待値と分散の計算のやり方でした。